カタナ月記
Last Update: 2018/01/27   First Update: 2018/01/09

七速から20年目のX'masプレゼント

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クランクケースからOilを吹いてしまった僕の刀号。_ノ乙(、ン、)_

当面の応急処置としてKE45を盛っているが、いつ再発するかわかったもんじゃないし、
そんな状態のままサーキット遊びを続けるのはちょっと気が引ける。
位置がシリンダーベースガスケットてのがまた厄介で、
クランクケースから上を全バラしないと交換できないんだよね。


・「外からで止まったんですか?」と某自動車メカニックに驚かれたが、止まりました。さすが信越KE45さま。


中古で入手してはや20年、じぶんでピストンリングを交換してから15年が経つ。

メーター読みの走行距離は10万kmを超えた。
このエンジンから、かなりの数の馬が消失しているのは乗り手として感じていた。
何しろホンの2年前まで、エアフィルターなしの直キャブで走っていたのだ。
吸い込んだダストの影響でバルブの当たり面は虫喰いだらけだろうし、燃焼室にもカーボンがたんまり堆積している筈である。
燃費はツーリングで12〜14L/km前後。サーキット遊びのときはその半分。
ノーマルキャブにノーマルマフラーのころは20〜22km/Lくらい走っていた。
本来、刀のエンジンの燃費は良い方なのである。

そもそも、当初はここまで長きに渡って乗ることになると思っていなかった。


開けどきであることは間違いない。
しかし、いまどき刀のエンジンをやるとなれば、純正部品の高騰化も相まって、
そこそこの新車が買えてしまうくらいの出費を覚悟しなければならない。
15年前とはわけが違う。

製造から約30年を経た旧車に乗り続けるために相応の投資をするか、
いっそ、そのお金で新しいバイクに乗り換えるか、
それとも安心して乗ることができなくなったマシンに妥協して、おっかなびっくり乗り続けるのか…。
そういう分岐点に来ているのをひしひしと感じながら、僕は何も決められずにいた。


---


「○○君じゃない?」


近所で初老の紳士に声をかけられたのは、そんな時期のことだ。


小学校のころよく遊んでいた友人のお父さんだった。

十三回忌以来だから、8年ぶりだ。
相手が先に名乗ってくれたので助かった。でも、よく僕が僕だってわかったなあ…。
僕は相貌失認なので、何処で誰と会って何をするというような明確な目的があるときはともかく、
出会うシチュエーションが異なると、ひとの顔を識別することがほぼできない。
例えば、街中で偶然、親兄弟に会ったとしても、じぶんから先に気付くことはない。
そんなだから、道で突然ひとに話しかけられると軽くテンパってしまう。
目の前にいる人間が誰なのかを理解するのに、
ひとより少しばかり多くの時間を必要とするのだ。


ひとしきりの世間話の後、こんな話を持ち掛けられた。


「実はそろそろ、あの刀を処分しようと考えているんです。
 使える部品があるなら○○君にどうかなと思って…」


友人は故人である。


20年前にバイクの事故で死んだ。
そのとき彼が乗っていたのがイレブン刀で、僕が刀に乗り始めたのは、その友人の影響だ。
(現在は休止しているBlogで、少しだけこの話に触れたことがある)

今にして思えば、そこまで仲がよかったわけじゃない。
でも、敬語抜き、おれおまえで話すことができて、遠慮なく互いの意見をぶつけ合い、
心おきなく喧嘩ができる最後の友人だったように思う。
そんな友人を大人になってから作るのはとても難しい。

腐れ縁のように付かず離れずの付き合いで小学校3年から二十代の後半まで一緒につるんでいた。
僕は成人してから乗り始めた晩生のバイク乗りだったから、
当時、バイクという共通の趣味を持つ友人は彼ひとりだった。
携帯電話は愚かインターネットすらなかった時代だ。


彼の死後、何処かバイク遊びにシラケてしまったじぶんがいた。
正直、バイクはもういいと思った。
でも、友人の死をきっかけにバイクを降りるというのが、どうにも面白くなかった。
逆の立場だったら僕はそうして欲しくないからだ。


それでふと、刀に乗ってみようと思い立った。


今も付き合いがある墨田のバイク屋のボスに刀を捜して貰った。
逆輸入のノーマルで、エンジンと車体がしっかりしていること。条件はそれだけだった。
刀に対する憧れや空冷四発への拘りなんてのは何もなかった。
旧車に対する事前知識も殆どなかったと言っていい。

僕は、半ば自棄で、半ば冗談のつもりで刀に乗り始めたのだ。


---


・事故車に見えないのは、生前の友人の仲間たちが“せめて形だけでもそれなりにしておこう”と部品を持ち寄って修理したから。


友人の両親は息子の形見であるマシンをずっと庭の片隅に保管していた。
触れるのは愚か、見るのも嫌だった筈だが、おそらく処分することもできなかったのだと思う。

曰く付きのバイクであるだけに決心するのは簡単じゃなかった。
生前の友人の友人に連絡を取り、こんな話があるのだけれど、どうだろうと相談したりもした。
「部品だけでも走らせてやったほうがn君が喜ぶんじゃないかな」
尤もな意見ではあるけれど、乗るのは僕だ。
あまり重いのは疲れるよ…。


二週間ほど悩んで、結局、車両ごと引き取ることにした。
業者に言い値で買い叩かれたり、バラバラにされてネットオークションに並べられるくらいなら、僕があの刀を使う。
そうするにあたって、友人のお父さんに幾つかお断りをさせていただいた。
譲って貰う立場なのに図々しい話ではあるけれど。



もし僕がやらかして、
n君のマシンの部品を使用した刀を修理できないほどに壊してしまったら、
そのときは申しわけないけれど諦めて欲しい。
また僕が怪我をしたり、仮に命を落としたりするようなことがあったとしても、気に病んだりしないで欲しい。
それは僕のせいだから。バイクってそういう乗りものだから。



友人のお父さんは優しく微笑んで、それを了承してくれた。



・メーターの距離は僅か23,616kmで止まっている。

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