カタナ月記
Last Update: 2020/12/10   First Update: 2020/08/30

再び蘇る銀狼

Page 3/3 [Previous]

2018/12/8
6月には公道復帰していた僕の刀だけれど、走るとまだ違和感が残っていた。
バイクを信頼することができず、以前のように自信を持って深く倒しこむことができない。
フレームは曲がっていない、…筈だ。たぶん。
でも、何かが、おかしい。

しかし、どうやってその原因を探ればよいのだろう。

「かんたんなことなんですよ」

水糸を用いたアライメント測定法をご教授くださったのは、
ロードレースの経験が豊富な松戸のバイク屋 『SP-3』 のボス、菊地原さん。
友人のブッチーさん(Mk.II乗り)が、お世話になっているお店です。

用意する水糸の太さは0.3mm。長さは5〜6m程度。
先ずはレーシングスタンドでバイクを垂直に立てる。
養生テープで水糸をリアタイアに貼り、サイドウォールのエッジに沿って車体前方に伸ばして、
端を地面に張り付ける。

フロントタイアのエッジから定規を当て、張った水糸との距離を測定する。

こんなイメージです。
すべて数字が同じ( a = b = c = d )なら前後の整列が出てるってわけ。
タイアは新品かそれに近い状態でなければならない。
サーキット走行でエッジが毛羽だっていると、正しい測定ができないから。
かつてはワークスチームもこの方法で車体のアライメント測定を行っていたらしい。
今でもそうなのかは知らないけど。

僕のバイクは前後タイアの整列が出ているにも関わらず、ハンドルの角度が左右で違っていた。
ステムとフォークが捩れてハンドルを少し切った状態で整列が出ているのだ。
よくよく観察すると、修正したはずのインナーチューブにまだ曲がりが残っているじゃないか orz
走行中、ハンドルから手を離してもバイクは真っ直ぐ走るのに、
何かしようとすると違和感を感じるのはこーゆう理由か。

2019/4/20
ステアリングステムは「新品が出るなら」新品に交換するのが確実。
長らくメーカー欠品だったそうですが、幸い、このときは在庫がありました。

インナーチューブは大野スピードさんがリプレイス品を出していたのでそちらをチョイス。
ついでとばかり、同社製のスライダーキットまで注文しちゃった。
(これが後々、意外なところで役立つことになる。)

2019/3/5
いよいよエンジンの組み立てを開始したHu-techのインスタグラムに、
「驚愕の事実が…」なるストーリーが(笑

先述したとおり、ドナーエンジンのロッカーアームとカムシャフトはアウトでした。
ロッカーアームは新品を発注。
カムシャフトはSOHCの渡辺さんが齧りのない程度そこそこの中古を譲ってくれたので、
これを用いる予定だったのですが、この組み合わせがアウトだった。

刀のカムシャフトは当たり面の幅がロッカーアームより広いので、カム山が段付き摩耗するんです。
だから、新品のロッカーアームで中古カムを組もうとすると、
段差に引っかかって正しいバルブタイミングが出ない…。

がっかりする僕の様子を見て「段がついたとこ削れば大丈夫」と飛馬さんは言ってくれたけれど、
カム山16箇所も削るのたいへんだよ。
摩耗して山が低くなった中古の純正カムにそこまで手間かけるてどうなのよ。

2019/5/3
結局、ST-1カムを注文。まったくもう。予定外の支出が次から次へと…。
今度こそ、ばっちりバルタイが決まり、約1年半に及んだエンジンのリビルドが完了しました。

GWのど真ん中、飛馬さんとふたりがかりで半日かけてエンジンを積み換え。
(休みなのに、僕のために店を開けてくれた)
この日は僕も余裕がなくて、写真がまったく残っていません。
作業台に乗っているのはお役御免となった10万kmエンジン。20年以上もの間、ありがとう。
そんで、にぅエンジンを搭載した刀号。これからもよろしく。

めでたしめでたし…なのだけれど、実は、もう一波乱あるのでした(笑

2020/5/4
にぅエンジンを搭載して帰った次の日。真っ先にチェックしたのがプラグの焼け。
袖ヶ浦で転ぶ少し前に、直ったと思っていたCR-Mキャブレターの3番カブり病が再発。
これが何をどうやっても直らない。
直らないまま、にぅエンジンを積み、直らないままトラブルを引き継いでしまったのでした。

まめさんにTELすると「スターターしか考えられない」という答えなんだけれど、
何度チェックしてもリークは確認できない。
3番以外のスタータープランジャと交換しても、カブるのは3番。
点火コイルとプラグコードを新品に交換しても、1-3のコイルと2-4のコイルをひっくり返しても、
やっぱり3番。こうなるとキャブのボディ以外の原因は考えられない。

原因究明のため引っ張り出してきたのが、CR-Mキャブレターの前に使っていたFCRφ37。
ダメ元で装着してみると、加速ポンプの動作がちょっと鈍いくらいでとりあえず使える。
もともとガタが来ていたキャブなので完調とは言い難いが、
様子を見ながら暫く走ってみて、恐る々々プラグを外すと問題の3番はしっかり焼けていた。

2020/3/21
その後、仕事が忙しくなって刀を弄る余裕がなくなり、遂には車検を切らせてしまう。
苦労して仕上げた新エンジンなのに、キャブをメンテして試走しては真っ黒なプラグを見てがっかりする。
貴重な休日を一日、また一日と無駄に消費していく負のサイクルの繰り返しに、僕は疲れてしまったのだ。
僕がオーナーになってから刀の車検を切らすのは初めてのことだった。

悩んだ末にCR-Mキャブを諦めた。
改めて入手したのは、ふつうのCR-Specialだ。FCRと迷ったけど、どうしてもCRでリベンジしたかった。

吊るしのCRは組付け精度が悪く、一度、全バラして組み直すのがお約束。
鈍らですぐ舐める純正ボルトとPEEK製のリンクロッドのみCR-Mキャブレターから移植。
出荷状態のセッティングも「こんなんまともに走るはずないだろう」というレベルのものなので、
CR-Mキャブレターの経験から、およその辺りを付けてジェッティングを変更する。

始動のみ確認し、墨田のバイク屋に連絡して、祈るような気持ちで刀を車検に送り出した。
戻ってきたら今度こそ好調になっている筈だ…。たぶん。おそらく。


車検後、最初に向かったのは、レストアベースとなったエンジンの元オーナーである友人の墓参りだった。

走り出して間もなく、かつてこのバイクに感じていた親密感が戻っているのがわかった。
あのたった一度のミスから2年。僕はずっと刀から満足いくフィーリングを得ていなかったのだ。
とりあえずのセッティングでスタートしているので少し下が細いが、バランスよく4気筒が燃えているのが伝わってくる。
FCRともCR-Mとも違う、CR-Special独特の柔らかいツキが心地よい。
コロナ騒ぎで緊急事態宣言下の自動車専用道路はガラガラに空いている。
オービスに気を付けつつ、スロットルを開けていく。

速度が増すにつれ、身体の緊張が解けていく。
よくできたチューニングエンジンがそうであるように、
ライダーの神経を削ることなく、スムースに、ごく自然にスピードが増していく。
タコメーターの針は1万回転を超えて、尚も上昇する。
冗談だろう?これ刀のエンジンなんだぜ。

長い々々、気が遠くなるほど長い倦怠期だった。ようやくスタート地点に戻ってきたと感じた。
僕はもう一度、このバイクと仲良くなれるだろうか。

Page 3/3 [Previous]

Special THANKS:Hu-tech facebook    

カタナ月記のTOPへ

home