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僕の刀のタイアは10年以上の間、Bridgestone BT45V一択でした。 言わずと知れた、デファクトスタンダード・ツーリングバイアスです。 安定感のある素直なハンドリングで、誰が乗ってもすぐに馴染める特性を持っている。 所謂、タイアの癖的なものを意識する必要がない。 ツーリングバイアスと言っても、 僕レベルのライダーには必要にして充分なグリップ性能も併せ持っていて、 サーキットで膝擦るくらい余裕。BT45Vでテイストオブ筑波を戦う猛者(≒変態)もいる。 ウエット性能も申し分なく、 シリカ配合で温度依存が低いため、寒い時期でも比較的神経を使わず走り出せることも魅力。 要するに、とてもバランスが良いタイアなのだ。 とても気に入っているので、リスペクトの気持ちを込めて、 僕は個人的に、“よんごーさま”と呼んでいる。目上なのである。敬称付きなのである。 --- そんな“よんごーさま”にもウィークポイントがある。 フロントが変磨耗しやすいことだ。 このタイアは柔らかめのコンパウンドと細かいトレッドパターンの組み合わせにより、 タイアのブロックが潰れる(捩れる)ことで、乗り心地の良さとグリップ感を両立している(ように思われる)。 どちらかと言うと、ロードタイアよりトレールタイア的な特性だ。 コンパウンドが柔らかいため、ちょっとハードに走行すると、目視で確認できるくらいトレッドがめくれる。 ツーリングモデルの割にアブレーションも多い。 僕の場合、バイクの用途は、ツーリング8割、サーキット2割。 街乗りはツーリング中に市街地を通過するときぐらい。 こうした使い方だと、“よんごーさま”の寿命は意外に短い。
・変磨耗したBT45のフロント。
5千kmも走ると、フロントのサイド部分が減って、ラウンド形状が三角形に近づいてくる。 その頃にはリアも台形化が進行しているため、以下のような切ないハンドリング公式が成立する。 切れ込みが激しいフロント × 立ちが強いリア = 寝かせて曲がらない開けたらフロント逃げる こうなったら、たとえスリップサインが出ていなくても交換時期。 まあ“よんごーさま”に限らず、こーゆう減り方をするタイアは多いのだけれど。 尤も、ツーリング中の峠比率が今ほどでなかった頃は、8〜9千kmはふつうに使えていた。 寿命が縮んだのはここ数年の話で、あまり遠出することなく地元のワインディングで遊ぶようになってからだ。 SRX600でもBT45(末尾にVが付かないのはHレンジ)を使用しているが、刀ほどの変磨耗は見られない。 たぶん車両重量の差が効いているんだろうな。 --- さて、“よんごーさま”の変磨耗は長年悩みのタネだったわけだが、 仲間内で“大魔神”と畏れられ、同じ19インチホイールの刀を駆る馬鹿ッ速い友人から耳寄りな情報を入手した。 BT39 for Americanの存在がそれ。 ハーレーのスポーツスターワンメイクレース用に造られたハイグリップスポーツバイアスで、 速度記号Hレンジ(最高速210km)ながら、フロントに100/90-19が設定されている。 19インチホイールの走り屋たちの間では、 こいつの回転方向を逆にして履く(俗に言う「逆履き」)のが定番らしい。 逆履きの目的は、変磨耗を抑えるためである。 ざんねんながら刀のリアに合うサイズ設定がないため、前BT39、後BT45Vとなる。
・前39/後45V
既に先人の実績があるといえ、 今まで前後に異なる銘柄のタイアを履かせたことなどなかったので、初めはかなり不安だった。 しかし、意識するのは最初だけ。 換えてすぐの段階では確かに違いを感じるが、「前とは少し変わったな」程度の話で、すぐに慣れることができた。 恐らく、他メーカーのタイアに履き替えるより違和感は少ないと思う。 BT39はソリッドで力強いグリップ感を持ち、運動性/旋回性でもBT45Vを上回る。 乗り味自体はツーリングモデルのBT45Vの方が柔らかいかもしれない。が、これも大差というほどのものはない。 心配だったのは、逆履きにしたことによるレイングリップへの影響だ。 タイアの回転方向が指定されている理由は、 トレッドの排水性を保つためで、他の性能とは関係ないらしい(※この頁の末尾に補足あり)。 しかし、フルウェットのビーナスラインを走っても、おかしな挙動もさしたる不安も感じなかった。 もちろん、レインでがんがんバイク寝かすような走りはしてないし、できないけれど。 タイアの性能ではなく、ライダーの技量的に。
・BT39 for American フロント。ビフォー。
・BT39 for American フロント。アフター。
・BT45V リア。アフター。(ビフォー撮り忘れたorz)
昨年の春から今年の春まで、かっきり1年間。走行距離は約6千km。 リアのBT45Vはスリップサインが露出してしまったが、 フロントのBT39にはだいぶ余裕があり、ラウンド形状をしっかり保っている。 変磨耗の少なさは話に聞いていたとおりで、これには本当に驚いた。 先にリアが根を上げるとはね。 さすがに後ろに少し重さを感じるものの、ハンドリングの劣化は許容範囲内で、 ふつうにツーリングやワインディングを愉しめる。 同じ使用状況でフロントがBT45Vだったら、気持ち悪くて我慢できなくなっている頃だ。 走行の中には約5時間のサーキット走行が含まれているから、 一般道のみなら、上手く使えば1万km近く持つんじゃないだろうか。 何故、逆履きにすると変磨耗が抑えられるのか、理屈はわからない。 確かなのは、BT39の逆履きがBT45Vの正履きより圧倒的に長持ちするという事実だ。 --- 前BT39(逆履き)/後BT45Vの組み合わせで、ひとつ問題点を挙げるとすれば、 タイアの剛性不足かもしれない。 BT39の速度記号は、Hレンジ(最高速210km)である。 メーター読みで200kmを越えたあたりから、ハンドルが∞を描くようにわなわなと揺れ始める。 同じ種類の揺れは、高速コーナーでフロントに荷重をかけて進入するときや、 ちょっとブレーキングを頑張っちゃったときなんかも出ることがある。 いずれもサーキットでの話。 公道でそんな挙動が出るまで攻めることは先ずないと思う。たぶん。おそらく。 バイクの振れの原因は特定が難しく、タイアのせいだけと断言はできない。 僕の刀の走行距離は既に8万kmを超えている。 整備状態だって完璧とは言い難い。 スピードメーターは経年劣化で反応が鈍くなっている(10%ほど低めの速度を示す)し、 リアサスなんて2万km以上、O/Hしていないのだ。(しろよ) 車体か足回りが根を上げているだけという可能性もある。 --- さて。 そんなわけでBT39/45Vの組み合わせは僕もかなり気に入ったのだけれど、 つい最近、BT39を進めてくれたのと同じ友人に、今度はMichelin Pilot Activeを薦められた。 みしゅらん。 かつて、僕が一度だけ、刀で転倒したときに履いていたタイアがMichelin Macadam50。 Pilot Activeは、その後継モデルにあたる。 (つづく)
【タイアの逆履きに関する補足】 本文中の「タイアの回転方向が指定されている理由は、 タイアは板状のゴム(トレッド)を巻いて、糊と熱と圧力で固めることで成型されており、 「それでは、タイアを逆履きにすると強度などにも影響が出るんじゃないか?」 しかし、友人の元タイアメーカー社員に話を伺ったところ、 厳密には、絶対的な強度に差はある筈だけれど、 やはり、いちばんの懸念はトレッドパターンの逆転によるタイアの特性変化です。 メーカーに「逆履きしていいか」と聞けば、必ず「No」という答えが返ってくるでしょう。 (2013/05/14 追記) |
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